citypopショート小説 【ボトルキープの約束】
はじめて彼が店に来た夜のことを、私はいまも覚えている。
雨に濡れたコートの肩を軽く払って、カウンターの端に座った人。
「いちばん静かに飲めるお酒をください」
そう言って笑った顔が、なぜか少し泣きそうに見えた。
それから彼は、週に一度だけ現れるようになった。
ウイスキーのロックを、氷が溶けきるまで。
私のくだらない話に、いつも「それで?」と先を促してくれた。
帰り際、「また来るよ」と言うときの声が、いつもほんの少しだけ甘かった。
左手の薬指に光るものには、気づいていた。
気づいていて、気づかないふりをした。
その光を見ないようにしているうちに、私は彼の名前を呼ぶ練習ばかりしていた。
彼がキープしたボトルには、私の字でつけた小さなタグが揺れていた。
「これ、俺が来ない日は、君が飲んでていいよ」
冗談めかして言われた夜、胸の奥が熱くなって、グラスを持つ手が震えた。
そして、あの日。
あの日から一年、開けることのないウイスキーボトル。
後ろに隠れるとこっそり前に出していた私。
左手に光った指輪を付けた彼は、
その日、私に「待っていて」と言い、背中を見せた。
コートの背中が、ドアの向こうの夜に溶けていく。
ベルの音だけが、いつまでも耳に残った。
それから一年経った今も、私は待っていた。
もう来ないとわかっているのに。
閉店後の店で、ボトルの肩をそっと撫でる。
ガラスの冷たさが、指先からゆっくり心まで染みてくる。
マスターは何も言わず、いつものように、グラスをひとつ、私の前に置いた。
「今日で、一年だね」
小さくうなずいたとき、ドアの外で、雨の音に混じって足音が止まった。
カラン、とベルが鳴る。
振り向けなかった。
振り向いたら、夢が覚めてしまう気がした。
「……ただいま、って言っていいのかな」
あの日と同じ、ほんの少し甘い声。
おそるおそる顔を上げると、雨に濡れたコートの肩を払う彼が立っていた。
少し痩せて、少し大人びて、そして――
左手には、もう何も光っていなかった。
「ちゃんと終わらせてきた。時間がかかって、ごめん」
言葉より先に、涙があふれた。
一年分の「待っていた」が、堰を切ったようにこぼれ落ちる。
「ずるいよ……待っていて、なんて」
「うん、ずるかった。でも君なら待っていてくれる気がして。
……いや、違うな。君に待っていてほしかったんだ」
彼はカウンターの端、いつもの席に腰を下ろす。
そして、棚の前に隠れるように置かれたボトルを見て、目を細めた。
「開けてないんだね」
「だって……」
一瞬、彼が言葉を失って、それから、くしゃっと笑った。
泣きそうなのに、嬉しそうな、あの夜と同じ笑顔だった。
「じゃあ、いま開けよう」
私はボトルの封を切った。
ぱき、と小さな音がして、琥珀色の香りが立ちのぼる。
一年分の時間が、静かにグラスに満ちていく。
マスターが、そっと二つ目のグラスを差し出して、何も言わずに奥へ下がった。
向かい合って、グラスを掲げる。
カチン、と澄んだ音が、静かな店にひとつだけ響いた。
ひとくち含むと、喉の奥がかっと熱くなる。
苦くて、深くて、少しだけ甘い。
でも今夜は、ちゃんと隣にその味の持ち主がいる。
ドアの外は、あの夜と同じ雨。
けれど今夜は違うの
🍎AppleMusicでNEMUKO MUSICを聴く

【夜に聴きたいシティポップ】昭和メモリーズ👠涙のPlaylist💧オリジナル歌詞5曲
【一番じゃなくてもいいの】 歌詞
YouTubeで
▶ この曲から再生
一番になれなくても いいの
あなたの視界に 入れるだけで
波間に光る ひとつの雫
名もなく揺れる それでもいい
煌びやかな店で あなただけ光る
連絡先の 一つになるだけ
気にしないふり うまくなったの
ボトルキープの 名前も見ない
比べたりしない 決めたでしょう
それでも胸に さざなみが立つ
一番になれなくても いいの
あなたの視界に 入れるだけで
波間に光る ひとつの雫
名もなく揺れる それでもいい
名前を呼ばれた数だけ この街で輝ける
遠くで鳴る 汽笛みたいな夜
それでも笑う 選んだネオン海岸
あなたの好きな色の光まとって
負け惜しみだって 呼びたいなら呼んで
本気の想いは 誰にも負けない
一番になれなくても いいの
あなたの視界に 入れるだけで
波間に光る ひとつの雫
名もなく揺れる それでもいい
あなたの好みに 合わせられなくても
今夜輝いた わたしは本物
一番じゃなくても 満ち引きのように
いつかは私の 名前が届く
波間に光る……ひとつの雫
【グラスロックの月】 歌詞
YouTubeで
▶ この曲から再生
あなたの指輪の跡が やけに痛い
気づかないふりが 大人の恋
交わすグラスは オン・ザ・ロック
溶けてゆくのは 心なのかな
カウンター越しに あなたの声は
少し疲れた 東京の匂い
週末だけの 特別扱い
それでもいいの ワガママ言わない
本当の場所には 私はいない
知ってるけど 今夜だけは
指輪の跡が 帰る場所ね
気づかないふりが 大人の涙
交わすグラスは オン・ザ・ロック
溶けてゆくのは 氷だけでいい
朝が来る前に 帰ってしまう
その後ろ姿も 覚えておくわ
誰かのものでも 今だけは私
街の灯りが そう囁くから
明日になれば また会えなくても
今夜の魔法 信じていたい
指輪の跡 騙せないから
それでもいいの 大人の罠
交わすグラスは 空っぽになって
溶けてゆくのは 私の気持ち
ロックグラスに映る 月がひとつ
欠けても綺麗と 思わせてよ
愛の形は ひとつじゃなくていい
今夜だけの 恋でも本気
指輪の跡 バカにしないでよね
【ジェラシーを乗せて】 歌詞
YouTubeで
▶ この曲から再生
タクシーに一人の恋だとしても
手を振るだけでいい
誰かの隣で 笑うあなたを
見ないふりする 私も大人
連絡先の 交換もしない
分かってるから 深入り(ふかいり)しない
それでも今夜 目が合った瞬間
時間が少し 止まった気がしたの
妬いてなんかない なんて嘘つけない
ネオンの色が 滲んで見える
タクシーに一人の恋だとしても
乾杯だけでいい
誰かの隣で 笑うあなたを
見ないふりする 私は大人
流れる街並 窓に映る自分の顔
思ったより 平気そうに笑ってる
強がりだって いいじゃないそれで
明日もカウンターであなたを待つの
叶わない恋も 恋には変わりない
それだけ信じて 前を向くの
タクシーに一人の恋だとしても
手を振るだけでいい
誰かの隣で 笑うあなたを
見ないふりする 私は ああ~
恋の終わりに向かって走る
この想いだけは 消えずに残る
報われなくても 愛したことは
私だけの 誇りになるから
2人のタクシーを見送る……それでもいいの
【滲んだルージュ】 歌詞
YouTubeで
▶ この曲から再生
真っ赤なルージュ 少し濃すぎた
大人のふりして 恋してみたの
ハイヒール鳴らして 気取って歩く
まだ二十歳の 夜の女優
教えてもらった マティーニの飲み方
煙草の煙は まだ苦いけど
あなたの隣 座ってみたくて
背伸びしすぎた 靴もドレスも
子供みたいって 笑わないでね
本気だからこそ 怖いくらいで
真っ赤なルージュ 少し濃すぎた
大人のふりして 恋してみたの
ハイヒール鳴らして 気取って歩く
まだ二十歳の ネオン街
背中を追いかけ 大人になりたい
あなたの好きな 女になりたい
鏡の中で 練習してるの
色っぽい笑い方 まだぎこちない
不釣り合いだって 分かってるけど
今だけは 見逃してほしい
真っ赤なルージュ 少し濃すぎた
大人のふりして 恋してみたの
ハイヒール鳴らして 気取って歩く
大人のふりしたイヤリング
いつかルージュの似合う女になって
あなたに近づきたい
いまは不器用だけど 振り向かせたい
子供だなんて言わせない
真っ赤なルージュ……滲んでもいいの
【鳴らないテレフォンナンバー】歌詞
YouTubeで
▶ この曲から再生
ポケベルは鳴らない 今夜も静か
液晶の数字 見つめるだけの夜
公衆電話の 曇りガラスに名前を書くの
あなたの声は 聞けないまま
見つめる意味知ってるくせに
自分から送る 勇気はなくて
あなたの番号 覚えてるのに
指が震えて ボタン押せないの
本気の恋みたい 笑ってごまかさないで
今夜こそ受け止めてよ
ポケベルは鳴らない 今夜も静か
液晶の数字 見つめるだけの夜
公衆電話の 曇りガラスに名前を書くの
あなたの声は 聞けないまま
喫茶店の窓 通り過ぎる背中
似てるだけなのに 胸が高鳴るの
本物じゃなくても いいから今は
このときめきを 大事にしたいの
連絡がなくても 嫌いにはなれない
不器用な愛の 続け方だから
ポケベルは鳴らない 今夜も静か
液晶の数字 見つめるだけの夜
公衆電話の 曇りガラスに名前を書くのも
辛くて すぐに消した
鳴らなくたって 愛は届いてる
そう信じてる 重たい女
いつかベルが 鳴るその日まで
ウヰスキーと待ちわびる
ポケベルは鳴らない……
あなたからの電話も無い
それでも待ってる
今日も背伸びしたドレスで
🎧SpotifyでNEMUKO MUSICを聴く
NEMUKO MUSICについて
今回のショートストーリーとオリジナル歌詞、いかがでしたか?
ぎゅっと苦しくなるような切なさを閉じ込めるように毎回心を込めて作詞作曲しています🥂
応援よろしくお願いします(´▽`*)
🦩https://www.youtube.com/channel/UCx_QC_6Gb5ef8pPctHN6i5w/join
NEMUKO
📌 最新情報・各SNSはこちら☟



コメント