最後の一曲
源さんは七十過ぎの常連客だった。
妻を亡くして五年。毎月命日には必ず来て、静かに酒を飲む。
「美樹ちゃん、妻に似てるんだよ。若い頃の」
いつもそう言って、優しく微笉む。
私は二十六歳。水商売で生きていくしかなかった人生。でも源さんの前では、少しだけ違う自分になれた気がした。
娘のように。人として。
「来月、施設に入ることになったんだ」
ある夜、源さんが言った。
「もう、ここには来られなくなる」
私の手を、皺だらけの手が優しく包んだ。
「本当の娘がいたら、君みたいな子がよかった」
涙が溢れた。
この仕事をしていて、初めて客の前で泣いた。
「一曲、歌ってくれるかい? 妻が好きだった歌を」
カラオケのマイクを握る。源さんのリクエストは「津軽海峡・冬景色」。
歌いながら、私は気づいた。
愛には、いろんな形がある。
恋人としての愛。親子としての愛。
そして、触れ合うことのできない、ガラスの向こう側の愛。
曲が終わると、源さんは静かに拍手をした。
「ありがとう。これが最後の思い出になる」
その夜、私は源さんを店の外まで見送った。
タクシーが角を曲がって見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
三ヶ月後、源さんの息子さんが店を訪ねてきた。
「父が亡くなりました。最後まで、美樹さんのことを話していました」
手渡された封筒には、手紙と一枚の写真。
若き日の源さんと奥さんが、幸せそうに笑っている。
裏には震える字で書かれていた。
「出会えてよかった。娘に」
私は店の裏で、声を殺して泣いた。
こんな私でも確かに、誰かの人生に花を咲かせていた。
💎離れ際の熱
歩道に影が伸び
空気が変わる
離れ際の一瞬が
心を掴む
強がりで結ぶ会話
沈黙が深まる
選ばれない未来が
胸で揺れる
感情を包み
逃げ場のない想いが
輪郭を持つ
離れ際の唇
立ち尽くしたまま
涙が伝った
サヨナラと語ってた
世界で一番悲しいキス
低く沈む旋律
感情を包み
逃げ場のない想いが
輪郭を持つ
💎ネオン硝子の約束
雨粒が舗道で呼吸を止め
橙の看板 視線を伏せる
ベル震え 指先は仮面を纏い
琥珀の揺れが喉を撫でた
笑顔は衣装 距離は規律
名を呼ばぬ選択 胸に沈め
触れれば壊れる静寂だけ
椅子越しの体温が残る
ネオンは心を曇らせ
触れぬ約束だけ増えて
夜はまだ終わりを選ばず
灯が胸で揺れている
終電前の沈黙 香りを連れ帰り
窓際で夢が剥がれ落ち
朝焼けさえ罪を照らせず
あぁ~
ネオンは心を曇らせ
触れぬ約束だけ増えて
夜はまだ終わりを選ばず
灯が胸で揺れている
グラス底に残る影
名前の無い夜が閉じていく
💎月影に揺れるまま
濡れた路地に月が落ち
影が静かに伸びる
視線が重なるたび
理性が遅れてくる
笑顔で包む距離
沈黙が深くなる
踏み出せない選択が
胸の奥で軋む
止まらないトキメキ
心を掴み
行き場のない感情が
夜に滲む
月影に揺れるまま
答えを持たず立ち止まり
近づくほど
不確かになる
一人目覚めたベットに
余韻だけが残る
止まらないトキメキ
心を掴み
行き場のない感情が
夜に滲む
💎終わらない思い
こうさてんで足が止まり
信号が揺れる
背中に残る気配が
心を縛る
冗談で逃げる声
視線は逸らせず
選ばれない未来が
胸で瞬く
低く鳴るリズム
感情を煽り
行き場を失った想いが
浮かび出す
終わらない思い
何も決めず佇み
近づくほど
脆くなる
貴方の背中に
沈黙だけが残る
低く鳴るリズム
感情を煽り
行き場を失った想いが
浮かび出す
💎静寂に置かれた鼓動
夜風がシャツを揺らし
呼吸が浅くなる
歩調を揃えても
距離は埋まらない
強がりで繋ぐ愛は
沈黙が増えてゆく
選ばない理由だけ
胸に積もる
想い出を語るピアノ
感情を削り
逃げ場を失った想いが
溢れそうで抑え込む
静寂に置かれた鼓動
動けないまま立ち止まり
近づくほど
貴方が見えない
朝に追われ
影だけが残る
想い出を語るピアノ
感情を削り
逃げ場を失った想いが
溢れそうで抑え込む
💎影に隠した本音
街灯が背中を照らし
影が重なる
視線が合うたび
早まるトキメキ
冗談で隠す想い
言葉は足りず
選ばない理由が
胸で疼く
長い髪をかきあげ
平気なふりをして
逃げ場のない想いが
静かに滲む
影に隠した本音
動けないまま
近づくほど
曖昧になる
離れるほど
愛おしいのに
長い髪をかきあげ
平気なふりをして
逃げ場のない想いが
静かに滲む
💎ミッドナイトの余白
湿った舗石 靴音が滲み
硝子越しに灯る合図
睫毛の影 揺れる仕草
時間だけが遅れて来る
敬語の裏 隠した熱
秩序は静かに息をする
触れない選択 守るため
視線は壁に逃げていく
夜更けは何も奪わず
想いだけ置き去りにして
帰れぬ理由を抱えたまま
胸の奥で波が立つ
グラス底の月が割れ
香水は記憶を曇らせ
あぁ~
夜更けは何も奪わず
想いだけ置き去りにして
鼓動は名を持たぬまま
静かに溺れていく
カウンターに残る余韻
誰にも渡さず閉じたドア
💎夜更けを渡る温もり
灯りの切れた街
足音が響く
横顔を見つめるたび
言葉が遅れる
笑顔の奥に
隠した不安
選ばなかった勇気が
胸を締めつける
深く沈むコード
心を撫で
抑えた想いが
夜に滲む
夜更けを渡る温度
決めきれず立ち尽くし
近づくほど
危うくなる
手を伸ばして
残る香りを抱きしめた
深く沈むコード
心を撫で
抑えた想いが
夜に滲む
💎ほどけない夜音
ネオンが遠く揺れ
街が息を潜める
隣にいる距離が
心を試す
笑顔の裏側で
迷いが増える
選ばない選択が
胸に刺さる
貴方からの指輪
想いを閉じ込め
もう見えないはずなのに
キラリと光る
ほどけない夜音
いつまでもまぶしくて
手を伸ばして
触れたくなる
私はひとり闇に飲まれ
抜け出せない夜景に浸るの
貴方からの指輪
想いを閉じ込め
もう見えないはずなのに
キラリと光る
💎灯りの下でほどける
ネオンが舗道を染め
空気が少し甘い
肩が触れるたび
心が先に傾く
冗談でかわす声
本音は伏せたまま
選ばれない未来が
静かに息をする
揺れるコードが
胸を撫で
抑えた想いが
浮かび上がる
灯りの下でほどける
決められないまま立ち尽くし
触れそうで
触れられない
背伸びした恋
温もりだけが残る
揺れるコードが
胸を撫で
抑えた想いが
浮かび上がる
💎夜に預けた呼吸
湿った空気に
灯りが揺れる
歩幅を合わせるたび
迷いが増える
強さを装う声
沈黙が伸びる
選ばない覚悟が
胸に沈む
静かな旋律
心を撫で
抑えた感情が
顔を出す
夜に預けた呼吸
立ち止まったまま
近づくほど
不安が濃くなる
貴方の瞳には
別の人の影が映ってる
静かな旋律
心を撫で
抑えた感情が
顔を出す


コメント